(7)ミロンガで踊るときに気を付けたいこと



- Aco -

ここまでの記事では、タンゴをめぐるさまざまなルール、マナーについて紹介してきました。

今回は、ミロンガで実際に踊るときに気を付けるべき点について説明します。
これらは、会場で毎回アナウンスがあるようなものではありませんので、事前にある程度頭に入れておく必要があります。
注意点が多くて大変だと感じるかもしれませんが、いずれも何かしらの理由があってのことですので、そこを理解していただければと思います。


1.踊る際は、フロアの外側を“反時計回りに”進む

フロアに出て踊るときは、なるべく外側を“反時計回りに”進んでいきます。
理由なく同じ場所にとどまったり、反対方向に向かって進んだりしてはいけません。
また、前に進むのが遅いと、後ろのペアの邪魔になり、ひいてはフロアにいるみんなが進めなくなります。
もちろん、非常に混み合っているミロンガでは、なかなか思うように進めないこともあります。そういうときは焦らず、全体の進み方に合わせて踊りましょう。

タンゴの基本は「歩き」です。音楽を聴いてアブラッソをして、二人の人間が一緒に歩くことがメインとなるダンスです。パラーダやヒーロなど位置を大きく変えないで行うステップもありますが、それがタンゴの本質かというとそうではありません。
歩いて、進んでいく。この基本をおさえて踊れると良いと思います。上手な人たちが集まるミロンガは進みがしっかりしていて、外から見ていても気持ちがいいものです。


※補足1
慣れないうちは、フロアの外側をキープできず、内側に入ってしまうこともあると思います。誰でもうまくできない時期はあるのでそれは仕方ありません。
ただし一度内側に入ってしまったら、外側に戻ろうとしないでください。内側から外側に戻るのは、人にぶつかったり外側の流れを乱す可能性が高いのでやめましょう。

※補足2
これは少し踏み込んだ話になりますが、バリアシオンのタイミングでは、リーダーが前に進まず、同じ場所にとどまって、ヒーロなどのステップをリードすることが多いです。

初心者の方向けに解説すると、バリアシオン(バリエーション)とは、タンゴの曲のなかでもっとも強く、速度を上げて演奏される部分のことです。大抵は曲の終盤に位置しますが、中盤にある場合もあります。バリアシオンのない曲もあります。

ピンとこない方は、ダリエンソの「Paciencia」などを聴いてみてください。終盤、一気に曲調が盛り上がるタイミングがあるのでわかると思います。
ともあれ、バリアシオンが始まると、その場にとどまって踊る人が増えます。曲に合わせて、少し動きの多い踊り方をする人が多いからです。ロンダの動きもそれに影響を受けるということを、余裕があれば覚えておいてください。バリエシオンが始まっても同じペースで前に進み続けようとすると、人にぶつかってしまうことがあるかもしれません。

ただ言うまでもなく、踊り方は人それぞれの自由ですから、その場にとどまらないといけないわけではないことを強調しておきます。


2.追い越さない

踊っている最中に、自分より前方にいるペアを追い越すのは基本的に禁止です。
ただし、前のペアがまったく進まなくて困る場合は、ぶつからないように気を付けながら、フロアの“外側”を通って追い越します。


3.人にぶつからないようにする

当たり前のことですが、踊っている最中、人にぶつからないよう注意しましょう。ぶつかってしまった場合は、すぐに真摯に謝りましょう。ぶつかっても無視して踊り続ける、というのはマナー違反です。

人にぶつからないようにするためには、踊りを先導するリーダーがまず視界に注意を払う必要があります。多くの場合、フォロワーは後ろ向きに進んでいきますから、後ろに人がいても気づけません。リーダーは、自分が進みたい方向で人が止まっていないか、どのくらいだったら進んでも接触しないですむか、なんとなく感じ取りながら踊りましょう。

またフォロワーも、周囲の混み方を見て、自分の動きに注意をしたいものです。混んだフロアで踊っているときに、ボレオで大きく脚を振り上げるなどすると他の人を蹴ってしまう可能性があります。
また、人だけでなく、フロア周辺に置かれた椅子やテーブルにぶつかることもあります。いずれにしても、安全な踊り方を心がけてください。

慣れないうちはなかなか周囲に気を配りづらいと思いますが、これもまたタンゴの技術のひとつだと思います。


4.相手に踊りの指導・アドバイスをしない

ミロンガは遊び場であり、レッスンの時間ではありません。踊った相手に踊りを教えるのはマナー違反であり、たとえそれが親切心からであってもNGです。

これは、ほとんどのミロンガ会場で禁止とされている行為です。しかし残念ながら、ミロンガで踊りながら相手に指導を行う人はまだ少なからずいるようです。とくに、リーダーとフォロワーのタンゴ歴が大きく違う場合に起きやすいかもしれません。
もし踊った相手に指導やアドバイスをされて不快に感じた場合は、踊りを断っても良いと思います。それが難しければ、ミロンガの主催者に一言伝えておくのが良いでしょう。
 
マナーをわきまえ、タンゴを楽しむことができている人は、たとえベテランであったとしても、決して相手の踊り方に口を出したりはしません。
相手ができないことを「教えてあげる」のではなく、一緒にできることを探して、その時間を楽しむのがミロンガだからです。
私は誘った相手が初心者だったら、リズムに合わせて一緒に歩くことだけを選択します。2人の動きが合っていて音楽に乗れたら、それだけでも楽しいものです。


5.男性は、右手を置く位置に気をつける

男性は、右手を女性の肩甲骨下部あたりに置きます。それより下に置いたり、不必要に深く腕を回すのはNGです。腰を抱きかかえたり、相手の胸部に届くようなアブラッソの仕方をしていては、セクハラと思われても仕方ありません。


以上、ミロンガで気をつけた方が良いことを5つ、紹介しました。
細かいことは他にもありますが、まずはこれだけおさえておけば十分でしょう。

それから、これはルールではありませんが、私がタンゴを楽しく踊るために意識していることも、合わせて紹介しておきます。


・踊りはじめを一番大切にする

流れ始めた音楽をちゃんと聴く
 ↓
アブラッソをする
 ↓
相手とのコネクションを感じる
 ↓
音楽に合わせて踊りはじめる

踊りはじめにこの順番を大切にすると、気持ちよく踊れる確率が高まります。
逆にこの順番を無視して、音楽も聴かず、相手のアブラッソを感じようともせずいきなり踊りはじめると、相手とも音楽とも合わない、つまらない状態に入っていきます。


・ステップもアドルノも音楽をベースにする

音楽を大切にすると、音楽は後ろから踊りを助けてくれます。
初心者のうちは、リーダーもフォロワーもどうしても、習ったステップを順番に、同じテンポで繰り返してしまいがちです。もちろん誰もがその時期を経るものですが、なるべく音楽を聴いて、音楽に合わせた動きができるよう努力していくことも大切です。「次はどうやって動こう」とばかり考えるのではなく、耳に意識を向けてみるのが良いと思います。


・踊る相手を尊重する

相手を尊重する気持ちがあると、自然とお互いの動きが合っていきます。相手に敬意を払わず独りよがりで踊っていても、気持ちの良いタンゴは踊れません。尊重できそうもない相手とは踊らないことです。


全7回にわたって紹介してきた、ミロンガに関するレッスン補填記事は今回でおしまいです。

以下にこれまでの記事へのリンクをまとめていますので、もう一度読んでおいた方がよいかも...と思う記事があったら、ぜひ読み返してみてください。知識も踊りも1回で習得できたらよいのですが、なかなかそうはいきませんね。
反復練習も含めて楽しんでもらえたらいいなと、タンゴの指導と普及に努める一人として願っています。

ここまでの閲覧ありがとうございました。

(1)ミロンガとは?
(2)ミロンガでの服装、清潔感について
(3)ミロンガではどう過ごすか
(4)誘い方・誘われ方~カベセオ
(5)タンダとコルティナ
(6)タンゴ、ミロンガ、ワルツ
(7)ミロンガで踊るときに気を付けたいこと